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AIを入れる前に消えている年147時間 従業員の62%が改善要望を出さない理由と、小さな会社の測り方

社内のIT環境が整っていないせいで、従業員1人あたり年147時間(約18営業日)が消えているという調査結果が出ました。ただ、この記事で本当に注目したいのは損失額のほうではありません。「改善が必要」と感じている従業員の62.4%が、会社に要望を出していないという数字のほうです。

調査の要点:1人あたり年147時間、100人企業なら年4400万円

DXERが経営者・役員300人と正社員1000人を対象に実施した「社内IT環境と従業員の成果に関する実態調査」の結果が公表されました(社内ITの不備で1人年18営業日の時間ロス、100人企業で約4400万円の損失換算に/キーマンズネット)。

動作の遅い端末やツール不足などによる時間ロスは、次のような分布でした。

  • 週1時間以上のロスがある:57.4%
  • 週3時間以上:38.0%
  • 週6時間以上:19.9%(このうち69.3%が「業務成果を損なっている」と実感)

平均すると週2.8時間、年147時間。時給3000円で換算すると1人あたり年約44万円、従業員100人の企業なら年約4400万円という試算です。

本当の問題は「不満が上がってこない」構造

個人的にこの調査で一番きついと思ったのは、損失額ではなくこちらです。

  • 「社内IT環境の改善が必要」と感じる従業員:44.2%
  • そのうち会社や上司に要望を出していない:62.4%
  • 不満をはっきり口に出した人:わずか12.5%

しかも、黙っている人ほど困っていないわけではありません。「要望を出したいが、できない」と答えた層は61.6%が週3時間以上のロスを抱え、46.7%が成果への悪影響を実感していました。「要望を出したいと思わない」と答えた層ですら、56.9%が具体的な困りごとを持っていました。

経営者側も裏返しの数字が出ています。31.7%が不満や改善要望を聞いた経験がなく、30.7%が満足度調査を未実施。しかも「聞いた経験がない」層の71.6%は満足度調査もやっていない。聞いてもいないし測ってもいないので、静かなまま時間だけが溶けていきます。

経営者の投資先と、従業員の困りごとはズレている

調査では両者の優先順位も聞いています。並べると、ズレがはっきり見えます。

経営者の投資優先領域 従業員の実際の困りごと
AI・自動化ツールの導入 47.3% AI活用の遅れ 26.8%
セキュリティ強化 34.3% アナログ業務の多さ 19.2%
PCやデバイスの刷新 28.3% 古いPCやデバイス 18.6%
IT・DX人材の採用・育成 26.7% 使いたいツールが導入されない 17.9%
ヘルプデスク・ITサポート強化 8.7%

経営者の投資先の1位は「AI・自動化ツールの導入」で47.3%。一方で、実際に人が詰まったときの受け皿になる「ヘルプデスク・ITサポート強化」は8.7%しかありません。新しい道具は買うけれど、使えなくて止まった人を助ける係は置かない、という配分です。

調査元も、困りごと1位の「AI活用の遅れ」を挙げた回答者の67.5%は、それ以外の課題も同時に抱えていたと指摘しています。AIが進まない原因が、AI以外のところ(端末、権限、業務フロー、問い合わせ先)にあるケースが多いということです。

【独自】時給3000円をうのみにせず、自社の数字で出し直す

「年4400万円」をそのまま自社に当てはめると過大になりがちです。時給3000円は年収600万円クラスの想定で、中小企業の平均とは開きがあります。試算式は単純なので、自社の数字で置き換えたほうが説得力が出ます。

年間損失額 = 147時間 × 自社の平均時給 × 従業員数

  • 10人・平均時給2000円 → 年約294万円
  • 30人・平均時給2000円 → 年約882万円

10人の会社で年294万円。パート1人分の人件費に近い額が、起動待ちと探し物と再入力に消えている計算になります。逆に言えば、数万円のメモリ増設や月数千円のツールでこの一部でも取り戻せるなら、投資判断としては速いということです。

【独自】5〜30人の会社が、今日15分でできる3つのこと

1. 「不満はある?」と聞かない

62.4%が要望を出していない状況で「何か不満ある?」と聞いても、返ってくるのは「特にないです」です。不満を言うのは上司や会社を否定する行為に見えるので、心理的なコストが高すぎます。

聞き方を、評価の話から事実の話に変えます。「先週いちばん待たされた作業は何だった?」——これなら不満ではなく出来事を答えればよく、答えるコストが下がります。「見積のPDF化で毎回3分待つ」のような具体が出てきたら成功です。

2. 1週間だけ「待ち時間メモ」を取る

測っていないものは直せません。ただ、全業務の棚卸しは重すぎて続きません。記録するのは次の3つだけに絞ります。

  • 起動待ち(PC・ソフト・ファイルが開くのを待った時間)
  • 探し物(資料・データ・過去のやりとりを探した時間)
  • 再入力(すでにどこかにある情報を、手で打ち直した時間)

この3つは原因と対策が直結しています。起動待ちは端末、探し物は保管場所のルール、再入力は連携かAIの出番です。1週間分を合計して週2.8時間を超えていたら、調査の平均より悪い状態だと分かります。

3. AIを入れる前に、AIが動く土台か確認する

生成AIの多くはブラウザで動くため、メモリが足りないPCではタブを開くだけで重くなり、「重くて使わなくなった」で終わります。導入前に、メモリ容量、ブラウザのバージョン、そしてそのツールを社内で使ってよいかを誰が判断するのか——この3点を先に確認します。3つ目が決まっていないと、現場は勝手に使うか使わないかの二択になります。

見落としやすい点:20〜30代の採用と定着に効いている

社内IT環境を「就職先・転職先選びの重要な基準」と見る割合は、全体で48.6%。これが週6時間以上のロスがある層では75.9%まで上がります(ロスがほぼない層は32.4%)。

20〜30代はさらに顕著で、週3時間以上のロスがある人が59.7%、転職先選びの基準にする人が56.5%、そして要望を出したくても出せない人が33.3%でした。若手ほど困っていて、若手ほど言えず、若手ほどそれを理由に会社を選び直す、という並びになっています。

採用に苦労している会社にとっては、古いPCは経費の問題ではなく採用条件の問題だ、という読み方ができます。

逆の既定解:「不満が出ていない」は安心材料ではない

念のため書いておくと、これは「今すぐPCを全部買い替えましょう」という話ではありません。すでに現場から具体的な要望が上がっていて、それが処理できている会社は、この調査の問題群からは外れています

危ないのは逆で、「うちは特に不満が出ていないから大丈夫」と感じている場合です。調査に照らすと、不満をはっきり言う人は12.5%しかいません。声が上がっていない状態は、問題がない状態とほぼ見分けがつかない、というのがこの調査のいちばん実務的な示唆だと思います。

まとめ

  • 社内IT環境の不備による損失は1人あたり年147時間(約18営業日)。自社換算は「147時間 × 平均時給 × 人数」で出す
  • 改善が必要と感じる従業員の62.4%は要望を出していない。不満の少なさは健全さの証拠にならない
  • 経営者の投資1位はAI導入(47.3%)だが、ヘルプデスク強化は8.7%。止まった人を助ける係が抜けやすい
  • まずやるなら、聞き方を「先週いちばん待たされた作業は?」に変え、起動待ち・探し物・再入力の3つだけ1週間記録する

AIツールの導入を検討している段階なら、その前に1週間分の待ち時間を測っておくと、導入後の効果も比較できるようになります。順番としては、測る、直す、それから渡す、が結局いちばん近道です。

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