「カスハラ対策が義務になるらしい」というニュースは見た。でも「うちみたいな社員10人の会社も入るの?」のところで止まっている。そういう社長さん、けっこう多いと思います。
結論から言うと、パートやアルバイトを含め人を雇っている会社なら、大きさに関係なく対象です。まだ手をつけていない会社が、最初にやることは3つ。お金はかかりません。
※この記事は2026年10月1日時点の情報に更新しました。法令・指針の運用は変わることがあります。

10月1日から何が変わったのか
2026年10月1日に、改正労働施策総合推進法が施行されました。これでカスタマーハラスメント(お客さんからの迷惑行為)への対策が、事業主の義務になりました。「やったほうがいい」ではなく「やらないといけない」に変わった、ということですね。
中身を決めているのが、厚生労働省の指針です。正式には「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)といいます。名前が長いですね。中身は法律の33条を、現場向けに噛みくだいたものです。
ここで一番大事なのは、中小企業の猶予がないこと。2020年にパワハラ対策が義務になったときは、中小企業だけ約2年待ってもらえました。今回、指針にも厚労省のリーフレット(詳細版)にも、その猶予は書かれていません。10月1日から、全社いっせいに始まっています。
そもそもカスハラって、どこから? クレーム全部じゃない
ここを誤解したままだと、対策が的外れになります。指針は3つの条件を並べていて、その全部に当てはまったものだけがカスハラです。
- ①お客さんや取引先の言動であること(買った人だけでなく、問い合わせてきた人、取引先の担当者、施設の利用者とその家族まで入ります)
- ②社会通念上、許される範囲を超えていること(要求そのものに理由がない、暴言や土下座の強要、居座り、しつこく続く連絡など)
- ③そのせいで働く人の環境が壊れていること
逆に言うと、まっとうな苦情はカスハラではありません。指針にも「顧客等からの苦情の全てが該当するわけではない」とはっきり書いてあります。障害のある人が配慮を求めること自体は、カスハラには当たりません。
面白いのは、②の判定です。「言っている中身」と「言い方」のどちらか片方だけが度を越していても当てはまることがある、と指針は書いています。要求は正当でも、長時間居座られればカスハラに当たり得る、ということですね。
義務は10個。でも、まだの会社が最初にやるのは3つでいい
指針が求めている措置は、数えると10項目あります。ぜんぶ読むと気が遠くなるけど、小さな会社が最初に手をつけるなら、この3つです。
ただし、残りも義務です。起きたあとの対応(リーフレットの⑥⑦)、プライバシー(⑨)、相談した人を不利に扱わないことの明記(⑩)。この3つを作ったら、続けて手をつけましょう。
1. 「うちは社員を守ります」と紙に書いて、配る
リーフレットの①と②が、これです。カスハラには毅然と対応して社員を守る、という方針を決めて、働いている人に知らせる。A4で1枚あれば足ります。紙にして配り、朝礼で読み上げるのが手軽なやり方です。
あわせて「そのとき現場はどうするか」も書いておきます。リーフレットは、上司に指示を仰ぐ/できるだけ一人で対応させない/犯罪になりそうな言動は警察に通報する/本部に共有するなどを例に挙げています。カスハラに当たる言動の例と一緒に、自社に合った動き方を書いておけば、②の形になります。
2. 困ったときの相談先を1人決めて、名前を出す
③と④です。立派な窓口はいりません。「まずは総務の◯◯さんへ」と名前が出ていれば成立します。大事なのは、その人が一人で抱えないこと。相談が来たら誰に上げるか、そこまで決めておきます。
3. 「ここまで来たら警察」の線を先に決めておく
これがリーフレットの⑧で、他のハラスメント対策にはない、カスハラ特有の項目です。悪質な相手にどう対処するかをあらかじめ決めておけ、と書いてあります。決めた線を社員に知らせ、実際に動ける体制まで作ることが求められています。
その場で判断させるから、現場の人が我慢してしまうんですよね。「暴力があったら即110番」「30分を超えたら店長交代」くらいの線を、平時に決めておく。これは書類仕事ではなく、社長の仕事です。
叩き台づくりはAIに任せていい。でも、この2つは任せちゃだめ
方針の文書を白紙から書くのは、正直しんどい。ここはAIの出番です。指針のPDFをChatGPTやClaudeに読ませて、こう頼むと下書きが出てきます。
「この指針の10項目を満たす、社員15人の内装工事会社向けの『カスハラ対応方針』をA4で1枚にしてください。専門用語は使わず、朝礼で読み上げられる文章で」
会社の人数と業種を入れるのがコツです。入れないと、どこかで見たような一般論が返ってきます。
ただ、AIに任せてはいけないところが2つあります。1つめは、110番する線引き。お客さんとの関係も、現場の人数も、会社ごとに違います。ここを一般論で決めると、いざというとき誰も動けません。2つめは、相談を受ける人。相談窓口の担当者は、話を聞いて安心させるのが仕事です。ここはAIに置き換えられない部分だと思います。
AIで録音するウォッチも出てきた。買う前に決める3つ
リーフレットの⑤に「事実関係を迅速かつ正確に確認する」とあります。この記録を助ける道具として、AIが音声を解析するデバイスが出てきました。アイフォーカスの「カスハラ対策Watch」は、腕時計型で、ワンタッチで録音を始めて、AIが問題発言を検知して管理者に通知する製品です(@IT・2026年9月4日)。提供開始は10月1日と発表されていました。
訪問営業や設備保守みたいに、一人で客先に行く仕事なら効きそうです。ただ、あわてて買う必要はありません。先に決めることが3つあります。
- 録音していることを、どう伝えるか(黙って録るのと、掲示するのとでは、後の使い勝手が変わります)
- 音声を何日で消すか(録音したお客さんの声は個人情報に当たり得ます。指針も、録音するときは個人情報保護法を守るよう書いています。ためっぱなしが一番危ない)
- 誰がその音声を聞けるか(リーフレットの⑨に、相談者のプライバシーを守れと書いてあります)
この3つが決まっていない会社が導入すると、社員を守る道具のはずが、社員に監視されている感じを与えます。順番としては、紙1枚が先。機械はそのあとです。
それでも不安なら、愛知の労働局に相談できる
「うちのケースはどっちなんだ」で迷ったとき、相談先は各都道府県の労働局にあります。愛知は、愛知労働局 雇用環境・均等部で 052-857-0312。受付は8時30分〜17時15分(土日祝・年末年始を除く)です(岐阜は058-245-1550、三重は059-226-2318)。番号は厚労省のリーフレットに載っている公式のものです。
顧問社労士がいる会社なら、そちらが早いと思います。いない会社でも、放っておく必要はないんだよ。
まとめ
10月1日から、もう義務は始まっています。
最初にやることは、①社員を守ると紙に書いて配る、②相談先の人の名前を出す、③警察を呼ぶ線を決める。この3つです。文章の叩き台はAIに作らせて、線引きだけ自分で決める。半日あれば形になります。
まだ何も手をつけていない会社も、今日から始めましょう。焦らず、紙1枚からです。
出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」/令和8年厚生労働省告示第51号(指針)/厚生労働省リーフレット(詳細版)


