「この見積書、ChatGPTに読ませて要約させたい。でも、お客さんの名前が入ってるんだよな」
ここで手が止まったこと、ありませんか。私もあります。今は、入れた文章が学習に使われる設定かどうかを見てから決めていて、使われる(かもしれない)ときは入れません。中小企業でAI導入が進まない理由の上位が、たぶんこれです。
結論から言うと、見るところは3つ。1つ目は、設定画面を1回開けば終わります。
※この記事は2026年9月時点の情報です。制度や各社の設定は変わることがあります。

そのAI、入れた文章を「勉強の材料」にしてる?
入力した文章が、AIを賢くするための学習に使われるかどうか。これは使っているプランによって、はじめから違います。同じサービスでも違うんです。
ChatGPTの場合
OpenAIの公式ヘルプには、こう書かれています。個人向けのChatGPTやCodexでは、入力した内容をモデルの学習に使うことがある。ただし設定(Data Controls)でオフにできる。
法人向けのChatGPT BusinessとChatGPT Enterprise、それにAPIは、はじめから学習に使わないと明記されています。
ただし落とし穴が1つ。オフにしていても、回答の下の高評価・低評価ボタンを押すと、その会話まるごとが学習に使われることがあると同じページに書かれています。ついクセで押してしまう、あのボタンです。なお一時チャット(Temporary Chat)は履歴に残らず、学習にも使われないとされています。
出典:OpenAI「How your data is used to improve model performance」
Claudeの場合
Anthropicのプライバシーセンターでは、商用のClaude for WorkとAnthropic APIについて、はじめから入力・出力を学習に使わないと書かれています。評価ボタンの扱いは同じで、押すと会話が最長5年保存され学習に使われることがある。TeamやEnterpriseの管理者は、組織設定の「Rate chats」で止められます。
個人向けのFree・Pro・Maxは逆で、設定で許可した場合に使われます。安全性の確認対象になった会話も使われることがあるとされています。シークレットチャット(Incognito chats)は使われません。
出典:Anthropic「Is my data used for model training?(商用)/同(個人向け)
要するに、まず見直したいのは「無料の個人アカウントを仕事に使っている」状態。法人プランに変えるだけで前提が変わるんだよね。
お客さんの名前、そこに入っていない?
ここから国のルールの話です。ちょっと固くなるので、要点だけ。
最初に1つ。「うちみたいな小さい会社は関係ないでしょ」と思った人。関係あります。顧客名簿を業務で使っていれば、従業員1人の会社でも個人事業主でも「個人情報取扱事業者」にあたると定められています(個人情報保護法16条2項)。規模による除外はありません。
個人情報保護委員会は令和5年(2023年)6月2日に、生成AIを使うときの注意喚起を出しています。事業者に向けた部分は2つです。
- 個人情報を含む指示文(プロンプト)を入れるときは、あらかじめ特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
- 本人の同意なしに個人データを含む指示文を入れて、それが回答を出す以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとされています。そのため、提供会社がそのデータを機械学習に利用しないことなどを十分に確認すること
一般の利用者に向けた部分では、利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認して判断することも挙げられています。さっきのプラン確認は、まさにここに当たります。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
ここで大事なことを1つ。プランの確認で済むのは、②のうち「機械学習に使わないかの確認」の部分だけです。 ①の利用目的の確認は別に必要ですし、それだけでもありません。
OpenAIもAnthropicも米国の会社です。同委員会のガイドラインQ&A(Q10-25)では、外国の会社が提供するクラウドに個人データを保存する場合、その国の個人情報保護の制度を把握したうえで、安全管理の措置を講じる必要があるとされています。学習に使われないプランを選んでも、宿題は残るということ。
出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドラインに関するQ&A」
なお、この注意喚起は今も委員会サイトに掲載されたままです。ただし令和8年改正より前の法律を前提にしたもので、ガイドラインは改正にあわせて見直される予定です。
ちなみに、7月に法律が変わりました
これは急ぎません。頭の片隅にだけ。「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が令和8年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。ただし施行日は原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内で、これから政令で決められます(一部の規定を除き、今は未定)。統計情報等を作るための第三者提供や課徴金など、中身も入っていますが、細かいルールは検討中です。委員会は令和8年9月9日に整備の進め方を決定し、これから意見交換とパブリックコメントを進めると公表しています。今日やることは変わりません。 自社にどう効くかは、細かいルールが出てから専門家に確かめてください(この段落は2026年9月9日時点)。
出典:個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」(成立日・公布日は同ページ内の概要資料に記載)
私ならこうする:名前の入っていない仕事から渡す
ここまで読んで「やっぱり面倒だな」と思った人。正解です。私もそう思います。
だから提案があります。最初に任せる仕事を、個人情報が入っていないものから選ぶ。これだけで、上の確認のほとんどを通り抜けられます。
たとえば本業の電気通信工事では、系統図の清書をAIに任せています。図面に載るのは設備の情報だけで、お客さんの名前は出てきません。体感では、規模の大きい集合住宅で半日かかっていた作業が30分ほど、戸建てなら30分が10分ほど(計測ではなく実感の数字です)。それよりありがたいのが、発注元からの手直しの指摘が減ったこと。若手がいやがる仕事だったので、そこが助かっています。
名古屋の会社なら、こういう仕事から探してみてください。製品カタログや仕様書を読ませて社内向けの説明文にする。助成金の募集要領を、自社の言葉に置き換えて要約する。どちらも紙に人の名前は載っていません。
1つ注意を。名前を伏せ字にする手はよく使われますが、伏せ字にすれば個人情報でなくなる、とは限りません。 法律の定義では、他の情報と照らし合わせて本人が分かるものも個人情報に含まれます(法2条1項1号)。議事録は名前を消しても、役職や案件名で誰のことか分かってしまうんだよね。
今日やること
1つだけです。今使っているAIが、個人プランか法人プランかを見てください。ここが、はじめの1歩になります。
そのうえで、名前や住所が入った資料を入れるか迷ったら、答えは「入れない」でいいと思います。判断がつかないまま入れるより、名前の出ない仕事に切り替えるほうが早いので。
どこまでが個人データにあたるかは、業種や扱う情報で変わります。委員会の「個人情報保護法相談ダイヤル」(03-6457-9849)は、適法か違法かの判断を求める相談には応じていないと明記されています。新しい取り組みの相談には「PPCビジネスサポートデスク」(要予約)があり、線引きの判断そのものが必要な場面は弁護士に相談してください。
焦らず、名前の入っていない仕事から1つ。そこからで大丈夫ですよ。


