「AI、便利だよ。みんなも使ってみて」
そう言って1か月。気づけば、毎日使っているのは社長のあなただけ。ここで手が止まったこと、ありませんか。
結論から言うと、足りないのは「使ってみて」の先のひと言です。何を、いつまでに。国の白書に載っていた中小企業の事例も、途中で「課題と目標」と「発表の日」を決めていました。
※この記事は2026年9月時点の情報です。調査の数字や各社の取り組みは、その後変わることがあります。
会社として取り組めていないのは、ふつうのことです
まず安心してほしい数字から。総務省の「令和8年版 情報通信白書」に、企業のAI利用を聞いた調査が載っています。
生成AIを「積極的に使う」「使う場面を決めて使う」方針だと答えた中小企業は58.1%。前の年度の調査では34.3%だったので、方針を出す会社は一気に増えました。
ところが、会社として何か取り組んでいるかを聞くと、話が変わります。利用を禁止している会社を除いて聞いたところ、中小企業の45.6%が「組織的な取り組みはない」と答えました。大企業は18.1%です。
10社あれば4〜5社は、会社としての取り組みがまだないということ。あなたの会社だけじゃないんだよね。
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書|生成AIの活用方針等」/同「組織的な取組状況」
ひとつ注意も。この調査は2026年1〜2月のネット調査で、対象は従業員10人以上で、すでにデジタル化を始めた会社の管理職以上です。日本の中小企業の回答は162件。まだ何も始めていない会社は入っていません。
広がる会社の社長は「使ってね」で終わらせていない
同じ白書に、取り組みのある会社がどんな手を打っているかも出ています。中小企業でいちばん多かったのは、「経営幹部から各部署に、やることや目標を示している」の32.9%でした(取り組みのある会社だけに聞いた割合です)。
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書|組織的な取組状況」
白書はここから、中小企業では「トップダウンの関与がキーポイント」だと読んでいます。
要するに、「使ってみて」はお願いであって、指示になっていないんです。ちょっと耳が痛いですよね。
白書はこうも書いています。AIツールを入れても、一部の積極的な社員だけが使って終わる可能性もある。聞き取りをした先進的な会社は、使い方の例を集めて社内に広げたり、定期的にワークショップを開いたりしていました。
たとえば日清食品グループ。部門ごとに効果が出そうな仕事を選び、指示文(プロンプト)のひな形を作って、効果を測りながら少しずつ広げた。社内の利用率は直近で7割を超えたそうです。
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書|AI導入・活用による効果創出のステップ」
奈良の中小企業がやった順番を見てみます
大企業の話は遠いですよね。白書には、中小企業の事例もあります。奈良県や京都府南部で注文住宅やリフォーム、介護、保育などを手がけるアイニコグループです。
始まりは、社長自身がAIを相談相手に使い始めたこと。ChatGPTなどは社内にありましたが、使い方は個人止まりでした。会社としての使い方が決まっていない状態からのスタートです。
最初の勉強会では、仕事の話をしなかった
外部の支援会社と組んで開いた全社員向けの勉強会。題材にしたのは、業務ではなく親しみやすい物語。AIとやりとりして「こんなことができるのか」を楽しく知る場にしたそうです。
いきなり「請求書の作業をAIで」と言われたら、身構えますから。
各部署2人、週1時間、3か月ごとに発表
次に、挑戦したい社員を各事業部から2人ほど募りました。10事業部で21人です。
- 自分の部署の困りごとから、AIで解決したい課題と目標を決める
- 週1回・1時間ほどの勉強会で、進み具合を見て専門家のアドバイスを受ける
- 3か月・6か月・12か月の節目で、成果を発表する
1年後の報告では、10事業部の合計で年2,247時間の作業が減ったとされています(同社の報告)。1日8時間で割ると、約280日分。問い合わせ対応のひな形化と自動化だけで、年897時間の部署もありました。
ルールは最低限に絞っています。例として白書に載っているのは2つ。個人情報を入れない。オプトアウト設定を必ずする(入力した内容をAIの学習に使わせない設定のことです)。怖がりすぎて使われなくなるのを避けるためだそうです。
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書|アイニコグループの事例」
15人の会社に縮めるなら、私はこうします
ここからは白書を読んだうえでの私の考えです。名古屋の社員15人くらいの会社で考えます。

社長がやるのは「紙1枚」と「3か月後の発表日」
最初に、使っていい範囲を紙1枚にします。
1つ目は、お客さんや社員、取引先の名前・連絡先・顧客番号など、誰のことか分かる情報は入れない。名前を消しても、ほかの情報と合わせれば誰か分かるなら同じです。
2つ目は、使う全員のアカウントを学習に使われない設定にしておく。ただしこれは「入れたものが学習に回らない」ための設定です。個人情報を入れてよくなる設定ではありません。設定の見方は会社の資料を生成AIに入れていいのかの記事にまとめました。
どこまでが「誰のことか分かる情報」か、線引きで迷ったら、社内で決めきらずに弁護士など専門家に確認してください。
そのうえで、部署から1人ずつ選んで、1人1つの仕事を決めてもらう。週1時間。そして3か月後の発表日を、この場で決めてしまいます。
任せる仕事に迷ったら、AIに何を任せるか迷ったときの記事から選んでみてください。
最初から全員分の有料プランは要らないと思う
白書も、まずは少ない投資で、安全に使える環境を作るところからと書いています。3か月で成果が出た仕事から、ひな形にして全員に配る。お金をかけるのはそのあとで十分じゃないかな。
ただ、その間も「社員の個人アカウントに、会社やお客さんの情報は入れない」と紙1枚に書いておいてください。書いておかないと、手元の無料アカウントに入れてしまう人が出るかもしれません。
画面の話も1つ。東京の千代田区では、ChatGPTに画面を切り替える数秒の手間が「使いたくない」壁になったそうです。そこで区は、ふだん使うWordやExcelの中で動くAI(有料のMicrosoft 365 Copilot)を事務職員約900人に配りました。社員が毎日開く画面から入れるか、は小さな会社でも効きます。ツール選びでは、まずここを見てください。入れた情報を学習に使わせない設定にできるかは、別にチェックが必要です。
出典:ITmedia ビジネスオンライン「千代田区、生成AI全庁展開で『年間4000時間』を削減」
逆に、社員が5人以下で同じ部屋にいるなら、こんな段取りは要らないと思います。隣で1回使って見せるほうが早いです。ただ、紙1枚のルールだけは人数に関係なく作っておいてください。
今日やること
1つだけです。「誰に、どの仕事で、いつまでに試してもらうか」を1行で書いてみてください。
それを朝礼で言えたら、「使ってみて」から一歩進めます。
焦らなくていいんだよ。まずは1人、1つの仕事からで大丈夫です。


