たとえば、こんな話を聞いたとします。「うちの若い子、見積書をそのままAIに貼ってたらしいんだよ」
ヒヤッとしますよね。でも「何を入れちゃダメなのか」を口で説明しようとすると、意外と言葉が出てこない。社長のほうも、線がはっきりしていないからです。
結論から言うと、社員に配るルールは紙1枚で足ります。しかも一から書かなくていい。無料で公開されている「ひな形」に、入れないでほしい情報がもう並んでいます。
※この記事は2026年9月時点の情報です。各社の設定や法律は変わることがあります。

一から作らなくていい。ひな形が無料で公開されています
使うのは、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が公開している「生成AIの利用ガイドライン」です。Wordのファイルで配られていて、今のものは第1.1版(2023年10月公開)。条項だけの版と、解説つきの版があります。
前文には、組織が「最低限定めておいた方がよいと思われる事項」をまとめたひな形だと書かれています。【 】の中を自分の会社に合わせて書き換えて使う作りです。会社名や、使うAIの名前、問い合わせ先を埋めていくイメージですね。
ただ、そのまま配るには長いです。解説つき版は、著作権の条文の話まで入っています。15人の会社で全員に読んでもらうのは、ちょっと現実的じゃない。
なので、この記事では「入力」の部分を中心に抜き出して、紙1枚に縮めます。
入力の章で「入れないで」と書いているのは3つ
ひな形は、データを入力するときに注意が必要な情報を6種類あげています。そのうち「入力しないでください」とはっきり書いているのは3つです。
人の名前や住所(個人情報)
顧客名簿、見積書の宛名、問い合わせのメール。社員の連絡先も同じです。ひな形は、ChatGPTを例に「個人情報を入力しないでください」としています。
おもしろいのは解説の中身です。履歴をオフにすれば学習に使われない設定があることを書いたうえで、AIの会社が外国の事業者なので、本人の同意なしには入れられない可能性がある、としています。条項には「使うAIによっては、条件を満たせば適法になる可能性もある」という但し書きもあります。それでも判断が複雑なので、一律に禁止を選んだ、という書き方です。ここは会社の資料を生成AIに入れていいのかを確かめる手順の記事で、国の注意喚起まで詳しく書いています。
取引先から預かった秘密(NDAの情報)
秘密保持契約(NDA)を結んで受け取った図面や仕様書です。工事会社なら元請けからの図面、製造業なら取引先の試作品の資料あたり。
ひな形はこれを、AIの会社という「第三者」に秘密を「開示」することになるので、NDAに反する可能性があると書いています。解説によると、学習に使われるAIなら違反になる可能性が高い。ただ学習に使われなくても、NDAの書き方によってはクラウドに置くこと自体が違反とされる例もある。だから一律に禁止、という整理です。
自分の会社のノウハウ(機密情報)
原価の出し方、社外に出していない手順、開発中のアイデア。ひな形は、入れること自体が法律違反になるわけではないとしつつ、使うAIの処理のしかたや利用規約によっては、法律で守られなくなったり、特許の出願ができなくなったりするリスクがあるので、入れないでくださいとしています。
残りの3つ(他人が書いた文章、登録されたロゴやデザイン、有名人の写真や名前)は、入力の章では「入れること自体は原則として問題にならない」という書き方です。気をつけるのは、出てきたものを使うときのほう。ただし、他人の作品に似たものを作る目的で入れるのは別で、ひな形は後半の章で、作家名や作品名をプロンプトに入れないよう求めています。
「学習オフにしたから大丈夫」では、答えにならない
ここは迷う人が多いところです。「設定で学習をオフにしたなら、何を入れてもいいんでしょ?」と。
さっきの3つを見返してみてください。個人情報は、外国の会社に渡すことが、本人の同意なしでは問題になる可能性がある。NDAは、契約の書き方によってはAIの会社に渡すこと自体が引っかかる場合がある。ノウハウは、規約しだいで法律上の守りが弱くなるおそれがある。どれも「学習されるかどうか」だけの問題じゃないんです。
私自身は、入れた内容が学習に使われる、またはその可能性があるAIには、お客さんの名前が入った資料を入れません。そのうえで、学習されない設定でも、上の3つは社員には「入れない」で統一したほうが迷わないと思っています。人によって判断が分かれるルールは、守られにくいので。
15人の会社なら、紙1枚はこう書く
ひな形の順番を借りて、小さな会社向けに縮めるとこうなります。【 】は自分の会社のことばに置き換えてください。
AIを仕事で使うときのルール(【2026年10月】から)
1. 使ってよいAI:【会社で契約した○○】だけ。ほかのAIを使いたいときは【社長】に聞く。
2. 入れないもの
- お客さんや社員など、人の名前・住所・電話番号が入ったもの(名簿、見積書、問い合わせメール)
- 秘密保持契約(NDA)を結んで受け取った資料や、取引先から「社外秘」と言われた図面・資料
- 原価、社外に出していない手順やアイデア
3. 迷ったら:入れずに【社長】に聞く。聞いた内容はこの紙に書き足す。
4. 出てきたもの:まちがいや、他人の文章・ロゴ・有名人の顔や名前に似ていないかを、外に出す前に必ず自分で確かめる。
ポイントは1番です。ひな形も、使ってよいAIを名前で並べる方式(ホワイトリスト方式)をすすめています。「AIは使っていい」だけだと、社員が自分のスマホに入れた無料アプリまで含まれてしまうんだよね。
3番の「書き足す」も大事です。最初から完璧な線は引けません。質問が来るたびに1行ずつ増やしていけば、だんだん自分の会社に合った紙になっていくはずです。
なお、ひな形は2023年の版です。個人情報保護法は2026年7月に改正法が公布されていて、施行日や細かいルールはこれから決まります(個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」)。お客さんの情報を扱う業種、NDAの中身、特許の出願を考えている技術情報など、判断が分かれる場面は、使うAIの利用規約(入力が保存・学習されるか)とあわせて弁護士など専門家に確認してください。
今日やること
ひな形をダウンロードして、「使ってよいAI」の欄だけ埋めてみてください。今、会社で誰が何のAIを使っているか。それを書き出そうとした時点で、たぶん答えに詰まります。そこがスタートです。
残りの欄は、そのあとで大丈夫。紙1枚、今月中に1回配れたら十分だと思います。


